疎遠な関係
これまでの60年の間、30代半ばまでずっと実家で暮らし、母が亡くなった後、市川の自宅マンションを出て、新松戸で2年くらい一人暮らし、ハワイで部屋を借りてしばらくひとりで暮らし、そして、結婚して、オレゴンで暮らしてきた
私がひとりで暮らした部屋や、結婚して20年近く住んでいる当地を、父も妹も一度も訪れたことはない
ふたりとも、私がどんなところに住んでいるかとか、私の暮らしぶりには、まったく興味がないようだった
母が亡くなった後、天下りした会社を辞した父は、妹を連れて、国内や海外へひんぱんに一緒に旅をしていた
泊るところは、上高地の帝国ホテルや道後温泉の有名旅館、奈良の老舗旅館だとか、ハワイならいつもニューオータニカイマナビーチホテル、一流どころばかりだった
費用はすべて父持ちだったんだろう、と私は予想している
ハワイ、イタリアへ旅し、カナダにスキー旅行に行っても、私が住むオレゴンに足を伸ばそうという考えはなかったらしい
それでも一度、初めて、父と妹がオレゴンに来ると連絡してきたことがあった
どこへ案内しようか、我ながら意外なほどワクワクしながら、考え始めた矢先に妹が妊娠していることがわかり、計画は白紙に
それっきり、だ
父からオレゴンの家に電話がかかってくることは、ゼロ
まあ、かかってきても話したいことがあるわけではないから、それはかまわないが
手紙が来るときは、遺産相続の内容だとか、そういうことのみ
元気なうちは、メールが来ていたが、どれもあまり読みたい内容ではなかった
妹からの電話は、彼女が困ったことがある時だけかかってくる
それもここ数年は、まったくない
もちろん手紙や小包なんて来ないし、メールの返事すら、こっちが送ってから3日経たないと帰って来ない
これは今でもそうだ
父も妹も、私から連絡を取らなければ、ほとんど何もいってこない
うちでは、これが普通だ
ワイオミングで夏の仕事をした時、休みの日に時々一緒に出掛けた私より年上の夫婦が、毎日のように子供や孫と電話で話すのを見て、驚いた
まあ、この人たちはことさらまめに連絡する家族なんだろうが、ハワイに住む女友達も、カリフォルニアの姉妹と週に2,3回は電話やフェイスタイムをすると聞いて、へぇーと思った
世の中に「普通」というのはない、自分は自分でいい、と最近思うようになったが
それでも、この違いは大きいな、と思う
ずいぶん前だが、妹から電話で父の愚痴を聞かされた時、自分が言われたわけでもないのに、心臓がバクバクしてきたのには、驚いた
妹と私は、父のネガティブでねちっこいエネルギーにさらされることを「被爆する」といっていたが、まさにその通りだった
ネガティブな話をまた聞きするだけで、体に影響がでるなんて、まるでパブロフの犬だ