母のこと -7 薬は要らなかった
精神病院って、ほんとうに必要なんだろうか?
母に限って言えば、母は精神病院に入院する必要はなかったと思う
精神病院または精神科の閉鎖病棟へ見舞いに行ったことがある人なんて、あんまりいないと思うけど、あそこは私にはものすごく怖いところだった
行くだけで、具合が悪くなりそうだった
軽い症状のひとが入院したら、間違いなく悪化するだろう
能面のように、真っ白で血の気のない無表情な顔で、じっと椅子に腰かける、中学生くらいの若い女の子がいた
なんで、こんなに若い子が、と思った
母のベッドがあった部屋には、少なくとも8人か10人の女性患者のベッドが並んでいて
窓際の一番奥のベッドで、横になった患者がマスターベーションしてるのがわかった
母は何度か入院したので、私は何度も見舞いに行った
食事の時間に行って、食べるのを見守ったり
お菓子やデザートか何かを買って行って、一緒に食べたかもしれない
薬のせいか、病気のせいか、母は多分あまり話さなかったと思う
精神科にかかって、投薬を受けると、その薬のせいで、ものすごく躁になったりした
そうなると、友達に電話をかけまくって、ペラペラペラペラ、長電話が止まらなくなった
薬によって、状態が変わる
まるで、薬の操り人形みたいに
母には薬は必要なかったと思う
母に必要だったのは、話ができる人、話を聞いてくれる人
母をほっとさせてくれる人
我慢せずに、やりたいことをやっていいんだよ、そんなにがんばらなくてもいいんだよと言ってくれるひと
だったんじゃないか
でも、いくら周りでいろいろ語り掛けても、本人の耳に入らないと、結局はなんにもならない
何も変わらない
母が何をそんなにかたくなに思い込んでいたのか
身体的には、健康なのに、魂が生きるのをあきらめてしまうほど
何をそんなに思い込んでいたのか
母をそこまで追い込んだ強い思い込みが何だったのか
母が亡くなって20年以上経った今も、私にはわからない